リハデミック室

悩める新人セラピストへ~明日からの臨床に役立つ知識と技術~

『"Release"ってなにするの?』

主な登場人物:新人PT セイコー(以下、セ)、若手先輩PT ジシン(以下、ジ)

セ「先輩!やっと今回から実習・実技ですね!!(ワクワク)」

ジ「だいぶ嬉しそうだね(笑)ここまで概論的な話が多くて、講習なら座学みたいな感じばっかりだったもんね。」

セ「正直、疲れてきちゃってました・・・(汗)」

ジ「ほんとに正直だね。(笑)でも、そういう概論的な内容も頭に入れておかないと当然だけど臨床では通用しないからね。今回からは、実技的な話も含んだ内容になるからよりすぐに臨床で活用・応用していけるといいね。」

セ「はいっ!早速ですけど、前回の内容で出てきた"Release"って具体的になにをすればいいんですか?」

ジ「ちなみに、セ君はどんなことをすると思う?」

セ「う~ん、パッと思い浮かぶのは筋膜リリースとかですかね。」

ジ「きっとそうだよね。少し前に巷でも話題になったし、東京の某有名大学教授T先生がテレビや本で出倒してたよね。今では、僕たちのようなセラピストでなくても、一度は耳にしたことがある言葉かもね。」

セ「肩凝りの解消とかに使えて、自分一人でできるから便利なんですよね。」

ジ「そうそう。でも、決して誤解してはいけないのは、筋膜リリースだけですべてが解決するわけではないってことね。そんな万能な治療手技は存在しないから、あくまでもアプローチ方法の1つって思わないとダメだよ。どうしてもある手技を習得するとそればっかりで何とかしようと思ってしまいがちだからね。」

セ「新人や若手が陥りそうなことですね…気をつけます(汗)」

ジ「まず、筋膜っていうのは、よく"Fascia"とも言われるけど、全身に連なる三次元的に連続した結合組織のことで、身体のすべての他の要素を覆っているんだ。もう少し分かりやすく言うと、身体にくまなく張り巡らされた結合組織網みたいなもので、筋や器官、神経などとも連結し三次元的に全身を覆っていて、"第二の骨格""とも呼ばれるよ。」

セ「筋膜って、全身を覆ってるんですね!!」

ジ「そう。筋膜は、膜に強度と形態を与えるtypeⅠコラーゲン線維(膠原線維)と形態記憶性と伸張性を与えるエラスチン線維(弾性線維)から成り、身体の形を整えたり、身体の動きに合わせて形を戻したりしているんだ。つまり、姿勢と運動のコントロールにとって重要な要素なんだよ。」

セ「筋膜って、重要なんですね。」

ジ「一昔前までは、役割が不明で無視されていたし、特に手術の時なんかは邪魔者扱いされるものだったんだ。」

セ「筋膜ちゃん、かわいそうに・・・(泣)」

ジ「筋膜には性質上、柔軟な可塑性があるから、非対称的な姿勢や動作をとり続けたり、同じ姿勢を長時間とり続ける、外傷やOpeによる瘢痕などに伴って、筋膜の可動制限が生じると、筋膜が捩じれてコラーゲン線維とエラスチン線維が一部に集中化してしまうんだ。さっきも言ったけど、筋膜は全身につながっているから、他の筋肉や筋線維にまで線維が集中したことによる滑走性の悪さが波及し、痛みや筋力の低下、柔軟性の低下、運動パフォーマンスの低下、ADLの低下といった様々な障害を起こしてしまうんだ。」

セ「筋膜、恐るべしですね(驚)」

ジ「そこで、考案された治療テクニックが筋膜リリースなんだ。筋膜リリースは、一部分により固まった(集中化)コラーゲン線維とエラスチン線維とを解きほぐすテクニックで、ストレッチのようにある一定の方向に伸ばすのではなく、筋膜を様々な方向にリリースするよ。リリースまでには少し時間が必要だから、20~30秒から始めて、90秒以上リリースするといいかな。では、実際にやってみよう!」
☆実技『腓腹筋に対する筋膜リリース』
大前提:腓腹筋の走行を確認!!
腓腹筋内側頭
起始]大腿骨内側上顆 [停止]踵骨隆起
腓腹筋外側頭
起始]大腿骨外側上顆 [停止]踵骨隆起
①カーフレイズを行い、踵の挙がりが少ない方、または同じであればどちらか一側の腓腹筋を選択する。
②選択した腓腹筋に対して、筋膜リリースを90秒以上施行する。
③再び、カーフレイズを行い、効果判定をする。
※注意点:骨は動かないようにリリースする。

ジ「この治療操作によって、筋膜の捩じれ、滑りを改善し、筋や筋膜の伸張性、筋作用の回復を促すことで誤適応な姿勢や動作パターンを解消し、身体の適応的な状態を作り出すのが、治療の原則の第1段階である"Release"の主な内容だよ。繰り返しになるけど、決してこの治療テクニックだけで治そうと思わないこと。僕たちセラピストは様々な治療テクニックや運動・動作指導を通じて、運動や動作を改善する専門家でなければならないからね。」

セ「承知しました!」

ジ「じゃあ次は、"Release"の段階において、よく問題となる痛みの考え方と対処法について学んでいこうか。もちろん、実技ありで!」

セ「はい!」

*引用資料
・石井 慎一郎:リハテックリンクス株式会社 講習会・セミナー資料
・唐澤 幹男:TAP 講習会・セミナー資料
・青木 隆明、林 典雄:運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹,メジカルビュー.

 

本日のおさらい

1.筋膜(Fascia)は第二の骨格

2.筋膜リリースにより、筋膜の捩じれを解きほぐす

3.筋膜リリースで、何でもかんでも全て解決しようとしない