リハデミック室

悩める新人セラピストへ~明日からの臨床に役立つ知識と技術~

『筋膜性の痛みの考え方と対処~ゆっくり愛撫~』

主な登場人物:新人PT セイコー(以下、セ)、若手先輩PT ジシン(以下、ジ)

ジ「前回、"Release"における治療テクニックとして、筋膜リリースの話をしたけど、実際に臨床で施行していると痛みを生じてしまうことが多いんだ。」

セ「そうなんですよね…。患者さんが痛がってると逆効果じゃないかとか思ったりして、かえって中途半端な治療をしてしまっていることもあるかもしれないです(汗)」

ジ「不安だよね。ちなみに、セ君は、患者さんが痛みを訴えているときにどのように対処してる?」

セ「とりあえず温めたり、冷やしたり・・・してます。」

ジ「あるあるだね。痛みってよく分からないから、原因が何かを特定する評価をすっ飛ばして、とりあえず物理療法をやっとこうみたいな感じになっちゃうよね。」

セ「情けないことに…(泣)」

ジ「たしかに痛みって、学生時代にほんの少ししか勉強しないから苦手意識をもったり、深く考えようとする意識が乏しくなりがちなんだよね。」

セ「おっしゃる通りです・・・。」

ジ「でも、臨床で患者さんに治療をするからにはそんなことは言ってられない。少なくとも、筋膜リリースにおいては、アプローチの主体である筋膜性の痛みであることが多いと思う。セ君は、筋膜が痛みを出すって知ってた?」

セ「なんとなく、そういのが痛むんだろうな~とは思ってました。」

ジ「なんとなくね(笑)まず、筋膜の外層には知覚線維が豊富にあるんだけど、知覚線維の中でも痛覚を伝達するのがAδ線維C線維だったよね。Aδ線維は、伝導速度30m/s以下で瞬間的に侵害刺激情報を中枢へ伝え、一次痛(チクッとする鋭い痛み)に関与する。一方、C線維は、伝導速度2m/s以下からもわかるように、侵害刺激情報を数秒以上かけて中枢へ伝え、二次痛(ズーンとする鈍い痛み)に関与するんだったよね。」

セ「そ、そうでしたね!(汗)」

ジ「察したよ(笑)一次痛は痛みの中枢経路の外側系(感覚系)で伝達され、痛みの部位を的確に判別し、二次痛は内側系(情動・認知系)によって伝達され、痛みに伴うイライラ感・恐怖・不安感などの不快な感情変化や、血圧上昇・頻脈・冷汗・顔面蒼白などの自律神経症状も引き起こすんだ。」

セ「痛みっていろいろやってるんですね!」

ジ「そうなんだ。だから、痛みは単なる一感覚情報ではないんだよね。特に二次痛は、侵害刺激から患部を保護する上では重要な役割を持つけど、情動面や交感神経の高まった活動により、刺激が取り除かれた後も持続するんだ。それによって、患部の二次痛を伝達するC線維は、それをさらに痛みとして知覚して信号を送り続けるという負のサイクルを構築してしまうんだよ。」

セ「二次痛、恐るべしですね。」

ジ「そう。だから、臨床では物理療法のような一次痛に対するアプローチだけでなく、二次痛(情動系)に対するアプローチも必要なんだ。具体的には、リラクゼーション、疼痛のない運動経験やポジティブシンキングにより行動変容する認知行動療法などを行うことが推奨されてるよ。その中でも、今回は徒手的なアプローチとして、"Therapeutic Touch"を紹介するよ。これは、二次痛に関与するC線維を利用したテクニックなんだ。C線維には、Fast C-Fiber(60%)と哺乳類固有のSlow C-Fiber(40%)があるんだ。このSlow C-Fiberに刺激を加えて、発火させることで情動面や交感神経の活動を弱めて、痛みを抑制するんだ。」

セ「具体的には、どうすればいいんですか?」

ジ「ゆっくりとしたタッチで愛撫すんねん!!」

セ「は、はいっ!!Σ(・□・;)」

☆実技『対象筋に対するTherapeutic Touch』
大前提:対象筋の起始・停止、走行を確認!!
①痛みの部位(患部)の特定(聴取、触診)と疼痛強度を聴取(NRS or VAS)する。
②特定した部位に対して、ゆっくりと、やさしいタッチで軽擦・揉捏する。
※約1~3分程度施行することが多いが、対象者によって異なる。
③再度、疼痛強度を聴取し、効果判定をする。
④効果がなければ、もうしばらく継続するか、痛みの原因の再評価(ほんとに筋膜性?)をする。

ジ「"筋膜リリース"と"Therapeutic Touch"を組み合わせることで、筋膜の機能異常と疼痛軽減を図ることによって、患者さんの動作を阻害している影響因子を除去し、姿勢や運動パターンの異常を解体することは治療の原則において、とても重要なプロセスだよ。」

セ「ただリリースするだけでなく、痛みもしっかりと評価・対処していくからこそ効果的な治療ができるんですね!」

ジ「うん。臨床で"とりあえず"で済ましていいものなんてないからね!筋・筋膜の機能改善として、"Release"を学んだところで次は、その筋の働きによって動く関節の可動性拡大を図る"Align"について勉強していこうか。」

セ「いわゆる、ROMexですね!お願いします!」

*引用資料
・石井 慎一郎:リハテックリンクス株式会社 講習会・セミナー資料
・唐澤 幹男:TAP 講習会・セミナー資料
・松原 貴子、他:Pain Rehabilitation、三輪書店.

 

本日のおさらい

1.痛みは、一次痛と二次痛で分けて考える

2.二次痛は、情動面や自律神経にも関与する

3.二次痛には、ゆっくりとやさしく愛撫 ♡(笑)