リハデミック室

悩める新人セラピストへ~明日からの臨床に役立つ知識と技術~

『"Align"~運動学的知見に基づいたROMexによる可動域拡大~』

主な登場人物:新人PT セイコー(以下、セ)、若手先輩PT ジシン(以下、ジ)

セ「先輩!ROMexは、僕たちセラピストにとって超必須スキルですよね!」

ジ「そうだね。まさに、基本中の基本であり、これができないと話にならないと言っても過言ではないね。当然だけど、関節の特徴や、正しい運動が理解できているか否かで大きく治療効果が変わってくるから、それらを頭に入れおくことはとても重要だよね。セ君、いきなりだけど、主な関節の構成に関わるものってなんだったっけ?」

セ「えーっと、関節軟骨、関節腔、関節包、骨膜、骨端線です(`・ω・´)キリッ」

ジ「そうだね。キメ顔はいらないよ。(笑)」

セ「あ、すみません(笑)」

ジ「その中でも、臨床で特に意識するべきものは、関節軟骨関節包かな。関節軟骨には血管リンパが存在せず、滑液によって栄養されているため再生能力が非常に乏しいよね。そして、その滑液を産生するのが関節包の内側を覆っている滑膜だったよね。だから、関節運動に伴う負荷により滑膜から潤滑液である関節液が出ることで、関節の栄養が担保されているということだね。」

セ「関節を動かすって、とても大事なことなんですね。」

ジ「よくCMとかで、〝このサプリメントは関節の軟骨成分によく効きますよー!〟なんていう謳い文句を耳にするけど、そもそも関節軟骨には血管やリンパが存在しないのに、どうやってサプリメントの栄養成分が行き届いて効果が出るのかなー?と思うんだけど、まぁそれを摂取してるから大丈夫って思えるプラセボ効果は得られるかもしれないし、それを信じるかは個人の自由だからいいんだけどね(笑)」

セ「せ、先輩、それは笑えないっす(^▽^;)」

ジ「あ、ごめん、ごめん(笑)まぁそれはさておき、運動・動作改善のためだけでなく、拘縮があったり、自己体動の乏しい寝たきりの患者さんに対してもROMexを行うことの意義は非常に大きいことが分かるよね。」

セ「ROMexも奥深いですね~。」

ジ「セ君は、ROMexを行う際、どんなことを意識してる?」

セ「なるべく痛みを起こさないようにすることと、end feelを感じ取ることです。」

ジ「なるほどね。痛みによって筋性防御や筋緊張の亢進を引き起こして、かえって正常でない不自然な関節運動となって、さらなる痛みを誘発してしまうこともあるから、痛みのない、もしくは痛みを最小限にした範囲内で行うことはとても重要だね。あと、end feelね。これもめっちゃ大事!関節可動域を制限する要因には、関節包内の構築学的異常、関節包内運動の障害、関節周囲組織の短縮や癒着、筋の短縮や筋緊張の亢進、そして痛みや患者さんの心理的要因など多岐にたる。そのため、関節を動かしながらend feelが軟部組織性結合組織性骨性虚性のいずれのものなのかを判断し、原因を特定することは治療に直結してくるよね。ここでもやっぱり評価と治療が並行して行うものであることが分かるね。」

セ「評価と治療は切り離せませんね!」

ジ「そして、もう一つROMexを行う際に超重要なことがあるよ。」

セ「なんでしょうか?」

ジ「"関節内運動"だよ。

セ「あーっ、しまった!迂闊でした(゚Д゚;)」

ジ「ROMexでは関節内の動きを考慮して骨運動を行うことが非常に重要だよね。その際、関節内運動の方向を判断する方法として、Kaltenbornさんらが提唱した凹凸の法則が広く知られているけど、セ君、凹凸の法則ってなんだった?」

セ「凹面に対して凸の関節面を持つ骨が可動する場合には骨運動とは反対方向に凸の関節面が滑り(凸の法則)、凸面に対して凹の関節面を持つ骨が可動する場合には骨運動と同一方向に凹の関節面が滑る(凹の法則)というものです。」

ジ「そうだね。でも、実際にはこの凹凸の法則については、賛否両論があるんだ。凹凸の法則って、何か運動学的研究がなされているわけではなく、根拠となるデータは見当たらなくて、ちょっと言い方が悪いかもしれないけど、Kaltenbornさんが勝手に提唱している法則だとも考えられているんだ。」

セ「えーーっ、そうなんですか!?(゚Д゚;)」

ジ「うん。もしそうだとしたら、これはとっても大きな問題だよね。実際に、凹凸の法則に従って関節内運動が生じているわけではないとするなら、骨運動に伴って生じる関節内運動の運動学的知見を基にROMexを行うことが重要になるね。」

セ「なんでもかんでも凹凸の法則に当てはめてるようじゃダメなんですね・・・。」

ジ「そう。具体的には、例えば膝関節において、凹凸の法則では膝屈曲角度が増大するにつれて脛骨の凹の関節面は後方に滑るとされているけど、実験的検討では凹凸の法則とは逆に前方に滑ることが報告されているんだ。では、これを意識して膝屈曲ROMexの実技をやってみよう!」

☆実技『90°以下の屈曲角度での膝屈曲構成運動誘導法』
肢位:端坐位
①対象側の下腿近位後面部を両手で把持し、両膝で下腿遠位前面部を挟み当てる。
②両手で脛骨を前方に移動させながら両膝で対象の膝関節屈曲を誘導する。
※痛みを起こさないように!

セ「なんか裏切られた気分ですが、とっても勉強になります・・・。」

ジ「まぁでも、世の中にはいろんなセラピストがいるから考え方は人それぞれだと思うけどね。」

セ「ところで先輩、ROMexって何回くらい行った方がいいんですかね?」

ジ「残念ながら、いまのところ科学的に証明された適切な回数や頻度はないみたいだけど、できれば毎日数回程度の全可動域にわたる運動を行う必要があると考えられてるよ。」

セ「分かりました!」

ジ「じゃあ次は、可動域を拡大した時に、行った方が良いstabilityを高めるexerciseを紹介していくよ。」

セ「お願いします!」

*引用資料
・市橋 則明:京都府理学療法士協会主催 講習会資料.
・比嘉 奈津美:IAIR東海 講習会・セミナー資料.
・高橋 哲也(編):"臨床思考"が身につく運動療法Q&A,医学書院.

 

本日のおさらい

1.end feelで関節可動域制限の要因を特定する

2.ROMexは、運動学的知見に基づいて行うべき

3.ROMexは、毎日数回程度の全可動域にわたる運動を行う必要がある

 

 

 

『筋膜性の痛みの考え方と対処~ゆっくり愛撫~』

主な登場人物:新人PT セイコー(以下、セ)、若手先輩PT ジシン(以下、ジ)

ジ「前回、"Release"における治療テクニックとして、筋膜リリースの話をしたけど、実際に臨床で施行していると痛みを生じてしまうことが多いんだ。」

セ「そうなんですよね…。患者さんが痛がってると逆効果じゃないかとか思ったりして、かえって中途半端な治療をしてしまっていることもあるかもしれないです(汗)」

ジ「不安だよね。ちなみに、セ君は、患者さんが痛みを訴えているときにどのように対処してる?」

セ「とりあえず温めたり、冷やしたり・・・してます。」

ジ「あるあるだね。痛みってよく分からないから、原因が何かを特定する評価をすっ飛ばして、とりあえず物理療法をやっとこうみたいな感じになっちゃうよね。」

セ「情けないことに…(泣)」

ジ「たしかに痛みって、学生時代にほんの少ししか勉強しないから苦手意識をもったり、深く考えようとする意識が乏しくなりがちなんだよね。」

セ「おっしゃる通りです・・・。」

ジ「でも、臨床で患者さんに治療をするからにはそんなことは言ってられない。少なくとも、筋膜リリースにおいては、アプローチの主体である筋膜性の痛みであることが多いと思う。セ君は、筋膜が痛みを出すって知ってた?」

セ「なんとなく、そういのが痛むんだろうな~とは思ってました。」

ジ「なんとなくね(笑)まず、筋膜の外層には知覚線維が豊富にあるんだけど、知覚線維の中でも痛覚を伝達するのがAδ線維C線維だったよね。Aδ線維は、伝導速度30m/s以下で瞬間的に侵害刺激情報を中枢へ伝え、一次痛(チクッとする鋭い痛み)に関与する。一方、C線維は、伝導速度2m/s以下からもわかるように、侵害刺激情報を数秒以上かけて中枢へ伝え、二次痛(ズーンとする鈍い痛み)に関与するんだったよね。」

セ「そ、そうでしたね!(汗)」

ジ「察したよ(笑)一次痛は痛みの中枢経路の外側系(感覚系)で伝達され、痛みの部位を的確に判別し、二次痛は内側系(情動・認知系)によって伝達され、痛みに伴うイライラ感・恐怖・不安感などの不快な感情変化や、血圧上昇・頻脈・冷汗・顔面蒼白などの自律神経症状も引き起こすんだ。」

セ「痛みっていろいろやってるんですね!」

ジ「そうなんだ。だから、痛みは単なる一感覚情報ではないんだよね。特に二次痛は、侵害刺激から患部を保護する上では重要な役割を持つけど、情動面や交感神経の高まった活動により、刺激が取り除かれた後も持続するんだ。それによって、患部の二次痛を伝達するC線維は、それをさらに痛みとして知覚して信号を送り続けるという負のサイクルを構築してしまうんだよ。」

セ「二次痛、恐るべしですね。」

ジ「そう。だから、臨床では物理療法のような一次痛に対するアプローチだけでなく、二次痛(情動系)に対するアプローチも必要なんだ。具体的には、リラクゼーション、疼痛のない運動経験やポジティブシンキングにより行動変容する認知行動療法などを行うことが推奨されてるよ。その中でも、今回は徒手的なアプローチとして、"Therapeutic Touch"を紹介するよ。これは、二次痛に関与するC線維を利用したテクニックなんだ。C線維には、Fast C-Fiber(60%)と哺乳類固有のSlow C-Fiber(40%)があるんだ。このSlow C-Fiberに刺激を加えて、発火させることで情動面や交感神経の活動を弱めて、痛みを抑制するんだ。」

セ「具体的には、どうすればいいんですか?」

ジ「ゆっくりとしたタッチで愛撫すんねん!!」

セ「は、はいっ!!Σ(・□・;)」

☆実技『対象筋に対するTherapeutic Touch』
大前提:対象筋の起始・停止、走行を確認!!
①痛みの部位(患部)の特定(聴取、触診)と疼痛強度を聴取(NRS or VAS)する。
②特定した部位に対して、ゆっくりと、やさしいタッチで軽擦・揉捏する。
※約1~3分程度施行することが多いが、対象者によって異なる。
③再度、疼痛強度を聴取し、効果判定をする。
④効果がなければ、もうしばらく継続するか、痛みの原因の再評価(ほんとに筋膜性?)をする。

ジ「"筋膜リリース"と"Therapeutic Touch"を組み合わせることで、筋膜の機能異常と疼痛軽減を図ることによって、患者さんの動作を阻害している影響因子を除去し、姿勢や運動パターンの異常を解体することは治療の原則において、とても重要なプロセスだよ。」

セ「ただリリースするだけでなく、痛みもしっかりと評価・対処していくからこそ効果的な治療ができるんですね!」

ジ「うん。臨床で"とりあえず"で済ましていいものなんてないからね!筋・筋膜の機能改善として、"Release"を学んだところで次は、その筋の働きによって動く関節の可動性拡大を図る"Align"について勉強していこうか。」

セ「いわゆる、ROMexですね!お願いします!」

*引用資料
・石井 慎一郎:リハテックリンクス株式会社 講習会・セミナー資料
・唐澤 幹男:TAP 講習会・セミナー資料
・松原 貴子、他:Pain Rehabilitation、三輪書店.

 

本日のおさらい

1.痛みは、一次痛と二次痛で分けて考える

2.二次痛は、情動面や自律神経にも関与する

3.二次痛には、ゆっくりとやさしく愛撫 ♡(笑)

 

 

 

 

 

『"Release"ってなにするの?』

主な登場人物:新人PT セイコー(以下、セ)、若手先輩PT ジシン(以下、ジ)

セ「先輩!やっと今回から実習・実技ですね!!(ワクワク)」

ジ「だいぶ嬉しそうだね(笑)ここまで概論的な話が多くて、講習なら座学みたいな感じばっかりだったもんね。」

セ「正直、疲れてきちゃってました・・・(汗)」

ジ「ほんとに正直だね。(笑)でも、そういう概論的な内容も頭に入れておかないと当然だけど臨床では通用しないからね。今回からは、実技的な話も含んだ内容になるからよりすぐに臨床で活用・応用していけるといいね。」

セ「はいっ!早速ですけど、前回の内容で出てきた"Release"って具体的になにをすればいいんですか?」

ジ「ちなみに、セ君はどんなことをすると思う?」

セ「う~ん、パッと思い浮かぶのは筋膜リリースとかですかね。」

ジ「きっとそうだよね。少し前に巷でも話題になったし、東京の某有名大学教授T先生がテレビや本で出倒してたよね。今では、僕たちのようなセラピストでなくても、一度は耳にしたことがある言葉かもね。」

セ「肩凝りの解消とかに使えて、自分一人でできるから便利なんですよね。」

ジ「そうそう。でも、決して誤解してはいけないのは、筋膜リリースだけですべてが解決するわけではないってことね。そんな万能な治療手技は存在しないから、あくまでもアプローチ方法の1つって思わないとダメだよ。どうしてもある手技を習得するとそればっかりで何とかしようと思ってしまいがちだからね。」

セ「新人や若手が陥りそうなことですね…気をつけます(汗)」

ジ「まず、筋膜っていうのは、よく"Fascia"とも言われるけど、全身に連なる三次元的に連続した結合組織のことで、身体のすべての他の要素を覆っているんだ。もう少し分かりやすく言うと、身体にくまなく張り巡らされた結合組織網みたいなもので、筋や器官、神経などとも連結し三次元的に全身を覆っていて、"第二の骨格""とも呼ばれるよ。」

セ「筋膜って、全身を覆ってるんですね!!」

ジ「そう。筋膜は、膜に強度と形態を与えるtypeⅠコラーゲン線維(膠原線維)と形態記憶性と伸張性を与えるエラスチン線維(弾性線維)から成り、身体の形を整えたり、身体の動きに合わせて形を戻したりしているんだ。つまり、姿勢と運動のコントロールにとって重要な要素なんだよ。」

セ「筋膜って、重要なんですね。」

ジ「一昔前までは、役割が不明で無視されていたし、特に手術の時なんかは邪魔者扱いされるものだったんだ。」

セ「筋膜ちゃん、かわいそうに・・・(泣)」

ジ「筋膜には性質上、柔軟な可塑性があるから、非対称的な姿勢や動作をとり続けたり、同じ姿勢を長時間とり続ける、外傷やOpeによる瘢痕などに伴って、筋膜の可動制限が生じると、筋膜が捩じれてコラーゲン線維とエラスチン線維が一部に集中化してしまうんだ。さっきも言ったけど、筋膜は全身につながっているから、他の筋肉や筋線維にまで線維が集中したことによる滑走性の悪さが波及し、痛みや筋力の低下、柔軟性の低下、運動パフォーマンスの低下、ADLの低下といった様々な障害を起こしてしまうんだ。」

セ「筋膜、恐るべしですね(驚)」

ジ「そこで、考案された治療テクニックが筋膜リリースなんだ。筋膜リリースは、一部分により固まった(集中化)コラーゲン線維とエラスチン線維とを解きほぐすテクニックで、ストレッチのようにある一定の方向に伸ばすのではなく、筋膜を様々な方向にリリースするよ。リリースまでには少し時間が必要だから、20~30秒から始めて、90秒以上リリースするといいかな。では、実際にやってみよう!」
☆実技『腓腹筋に対する筋膜リリース』
大前提:腓腹筋の走行を確認!!
腓腹筋内側頭
起始]大腿骨内側上顆 [停止]踵骨隆起
腓腹筋外側頭
起始]大腿骨外側上顆 [停止]踵骨隆起
①カーフレイズを行い、踵の挙がりが少ない方、または同じであればどちらか一側の腓腹筋を選択する。
②選択した腓腹筋に対して、筋膜リリースを90秒以上施行する。
③再び、カーフレイズを行い、効果判定をする。
※注意点:骨は動かないようにリリースする。

ジ「この治療操作によって、筋膜の捩じれ、滑りを改善し、筋や筋膜の伸張性、筋作用の回復を促すことで誤適応な姿勢や動作パターンを解消し、身体の適応的な状態を作り出すのが、治療の原則の第1段階である"Release"の主な内容だよ。繰り返しになるけど、決してこの治療テクニックだけで治そうと思わないこと。僕たちセラピストは様々な治療テクニックや運動・動作指導を通じて、運動や動作を改善する専門家でなければならないからね。」

セ「承知しました!」

ジ「じゃあ次は、"Release"の段階において、よく問題となる痛みの考え方と対処法について学んでいこうか。もちろん、実技ありで!」

セ「はい!」

*引用資料
・石井 慎一郎:リハテックリンクス株式会社 講習会・セミナー資料
・唐澤 幹男:TAP 講習会・セミナー資料
・青木 隆明、林 典雄:運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹,メジカルビュー.

 

本日のおさらい

1.筋膜(Fascia)は第二の骨格

2.筋膜リリースにより、筋膜の捩じれを解きほぐす

3.筋膜リリースで、何でもかんでも全て解決しようとしない

『基礎を固める!~臨床で不可欠な戦略的臨床推論~』

主な登場人物:新人PT セイコー(以下、セ)、若手先輩PT ジシン(以下、ジ)

ジ「さぁ、セ君!ここからは臨床に直結する思考とテクニックを"じゃんじゃん"勉強していくよ!!」

セ「よろしくお願いします!」

ジ「まずは、僕たちセラピストの治療テクニックの基礎について学んでいこう。セ君は、日々の臨床でどのように治療プログラムを立案してる?」

セ「はじめに運動や動作を観察して問題点を抽出してから、次に着目した原因の評価と治療を行い、最後にもう一度、運動と動作の確認をして効果判定をするように心掛けています。」

ジ「いわゆる"トップダウン式"の理学療法ってことだよね。どうしても時間的制約のある臨床では、このプロセスで介入をするセラピストが多いのかな。」

セ「"Time Is Money."ですからね!」

ジ「たしかにね。戦略的臨床推論に基づく治療の原則として、EvaluationReleaseAlignConnectMove(Reevaluation)の順を意識すると治療が組み立てやすいと思うんだ。」

セ「急に難しくなりました…(泣)」

ジ「あ~、ごめん、ごめん!(笑)戦略的臨床推論は、患者さんのリハビリテーションを実現するための戦略(目的)と戦術(手段)の関係を明確にし、"何を?何の目的で?いつまでに行うか?"というビジョンを基に、介入方法を決定する推論(思考)なんだ。平たく言うと、まずゴール設定をして、そのゴールを達成するために"何が必要か"を調べるために評価をする。そして、予後を考え、その"予後とゴールの間のギャップ"をどう埋めるかの治療に展開していくことだよ。」

セ「なんとか頭が追いついてきました…(汗)」

ジ「次に、原則ね。Evaluation:〝運動や動作の問題抽出〟Release:〝痛みや筋性防御など、動作を阻害している影響因子を取り除き、固定的な姿勢または運動パターンから解放する(例 筋膜リリース、リラクゼーション、ロルフィングなど)〟Align:〝身体の各部位を適切な機能的配列に再配列させ、正常な感覚入力をフィードバックに基づく姿勢制御を再学習する(例 モビライゼーション、スタビライゼーションなど)〟、Connect:〝筋機能・筋活動の賦活〟、Move(Reevaluation):〝獲得した機能を運動や実用動作に反映できているかの効果判定〟という感じかな。」

セ「だいぶ分かりやすくなってきました(安堵)」

ジ「よかった(笑)まず基礎として、この原則に基づいて治療を考えるようにすることが戦略的臨床推論における有効で効率的なプラン立案の第一歩だと思うよ。」

セ「でも、具体的にどのようなことをすればいいのかが分かりません…(汗)」

ジ「じゃあ次は、特に治療テクニックに直結する"Release"と"Align"について、実技の話もしながら説明していくよ。」

セ「はい!」

*引用資料
・石井 慎一郎:リハテックリンクス株式会社 講習会・セミナー資料

 

本日のおさらい

1.評価は、ゴールの達成に何が必要かを調べるもの

2.治療は、予後とゴールの間のギャップを埋める手段

3.治療の原則が、戦略的臨床推論の第一歩

『"らしさ"を取り戻すための評価と治療』

主な登場人物:新人PT セイコー(以下、セ)、若手先輩PT ジシン(以下、ジ)

セ「先輩、評価と治療の選択って難しいですよね。臨床では時間的制約もありますし、有効で効率的な介入ができているか不安になります…(泣)」

ジ「たしかにね。限られた時間の中でより良い結果を求められるのが僕たちセラピストのタスクだし、"燃える"とこでもあるよね。セ君は、どんなことを意識しながら評価と治療を選択してる?」

セ「これまでのお話から察するに、非常に情けないんですが、どうしても疾患や障害に基づいて評価と治療を組み立ててしまっている部分があります…(汗)」

ジ「それはよくありがちなことだよね。僕も新人の頃はとにかく何か結果を出さなきゃと思って、やみくもに一様の評価と効果のありそうな治療をやってた。でも、やっぱりそれだと患者さんの回復もある程度で頭打ちになっちゃうよね…。」

セ「本当にそうなんです。患者さんに申し訳ないし、悔しくてたまらないです…(泣)」

ジ「それを解決するためには、"なぜその評価と治療が必要なのか?"を考えることが大切だよ。つまり、どのような評価を選びどのように評価をしてどのような解釈をしてどのように治療するのか、を考えながら評価と治療を立案することで明確な理由をもった評価によって得た結果から予後を予測し、治療展開を創造していくことができるんだ。」

セ「評価と治療のなぜを探るわけですね!」

ジ「そう。あくまで評価は患者さんが有する症状に対して"なぜ?"を探るために行われるべきで、その選択される評価で"何を知りたいのか?"を明確にしておきたいね。」

セ「数値的評価スケールでは、特に気をつけないといけないですね。」

ジ「その通り。例えば、ROM測定は、単なる関節角度の測定ではなく、end feelによる原因組織の特定や制限されている動作の原因を推察するために行うべきだよね。あと、運動麻痺の評価では、Brunnstrom Recovery Stageがよく用いられるけど、その数値を知ることではなく、その人の歩行やその他の動作にどのような影響を及ぼしているかを知るために行われるべきだよね。」

セ「それができれば、治療に直結してプログラムの立案にも困りませんね!」

ジ「だから、評価と治療は切り離せないし、同時に行われるべきものなんだ。一人一人の症状に対して、明確な根拠をもった評価から結果を得ることによって、運動速度、回数の選択、歩行距離、補助具の選択、誘導方法や声掛けなど、そのすべてがオリジナルな治療になるんだよ。」

セ「すべてオリジナルだからこそ、その人"らしさ"が再獲得できるんですね!」

ジ「そう。得られた所見が治療選択においてどう活用されるのかを常に考えて介入に取り組みたいね。」

セ「少し不安が解消されました!(安堵)」

ジ「それはよかった。さぁ、ここまではリハビリテーション理学療法の概論的な話をしてきたから、次からは、より臨床ですぐに役立つ実践的な思考やテクニックについて勉強していこうか!」

セ「はいっ!ワクワクします!」

*引用文献
・藤野 雄次、他(編):そのとき理学療法士はこう考える 事例で学ぶ臨床プロセスの導きかた,医学書院.

 

本日のおさらい

1.なぜ、その評価と治療が必要かを考える

2.数値的評価スケールでは、数値ではなく現象をみる

3.評価と治療は切り離さない